特集 植物/対談「衣植住のはなし」後編
2024/7/23
盛岡に根を下ろし、植物という、意のままにならない素材を用いて創作活動を続ける二人、龍大(りゅうた)さんと森(もり)さん。
廃れてしまった技能を試行錯誤でたぐり寄せながら日々を積み重ねる彼らに、創作のこと、そして街のことについてお聞きしました。
佐々木龍大さん/ささきりゅうた/藍染め(写真右)
山田町出身。日本の伝統の藍染「正藍染」を実践する染師。音楽家としても活動を続けており、近年は「井戸の月」として演奏会を行なっている。古い町並みが残る鉈屋町エリアにアトリエ兼ギャラリーを運営。
山代森さん/やましろもり/シナ布(写真左)
宮古市(旧川井村)出身。地域おこし協力隊として大ケ生に赴任、暮らしの支援等を行なっている。シナノキの皮を加工して作る織物・シナ布を制作。それを用いた製品を販売するのを目標に活動中。
[ 後編 ]
暮らしの場、鉈屋町
編集部(以下:盛星) 龍大さんのご出身はどちらですか?
佐々木龍大(以下:龍大) 山田町です。
盛星 沿岸なんですね。
龍大 沿岸っす。
盛星 盛岡ってどうですか?って雑に聞いてみますけど。
龍大 最初の10年くらいは友達できなかったですね。
盛星 なんと。
龍大 はい。けど、内側に入っちゃうとみんな優しいな~と。まぁ特に、この鉈屋町近辺は空気がいいし、ご老人とかも含めて人のつながりがより感じられるので、心地よく暮らさせていただいてるなと思います。
盛星 鉈屋町。僕は時々お店を覗いたりするだけ、イベントでちょっと来るだけなんですけど、内側から見た鉈屋町について教えていただけますか?
龍大 古い街道沿いで、「惣門」ってあるくらい、南部のお城とも関わるご商売の方が多かったんですよね。古くから続く家が多いし、奥ゆかしいっていうんですか、皆さま。観光地ではない、暮らしの場だと感じます。
盛星 市内でも独特な雰囲気があるなとは感じます。
龍大 そうですね。あとはそういうのを残そうっていう意識は感じますね。
盛星 街並みがそうですよね。
龍大 表の通りとかも何回も市が道路拡張しようとしたんですけど、それもみんなで反対して守ってきましたよね。数年前に「青龍水」(清水)の清掃を、近くのお店の方が1人でやってると聞いて愕然として、「俺めちゃくちゃ水を使ってるのになんで気づかなかったんだろう?」と思って次の週から手伝うようになりました。そうやって体を動かして交流してみて、大切なものがあるな、残さなきゃいけないものがある場所だなと感じました。
盛星 今朝、鉈屋町の通りを歩いていたら声をかけられて、「龍大さんの取材で来た」って言ったら「あぁだから今日おしゃれしてたんだ」って仰ってたんですけど(笑)
龍大 うそー!
盛星 朝のうちにご挨拶されてるんだなと、この辺のコミュニティを垣間見たような気持ちになりました。
龍大 あれですか? 女の人ですよね。
盛星 そうですね。
龍大 はいはい、だって僕、彼女の結婚のとき判子押してますからね。
盛星 保証人?
龍大 そうですね、妹みたいな感じで。なんか彼女らへんがいたおかげで僕もここに入れたのもあるんです。なんかご縁があって。
盛星 昔から「てどらんご」のようなイベントがあったり、ちょっと気になるお店ができたり、工房があったり。古い街並みなのに、新しい人も溶け込んでるなと感じます。
龍大 僕は井戸掃除に入ったおかげでコミュニティに飛び込めました。「ととと」(宿)の小野寺さんとか「イトウタカムネ写真事務所」の伊藤さん(写真家)とかも井戸掃除をやっていて、そういうことなのかなと思いますね、自然とコミュニケーションできるし。そのうち「ご飯つくったから食べにおいで」みたいなね。
盛星 桜山エリアなんかも古いお店と新しいお店がうまく回っているなという印象を受けるんですけど、鉈屋町はどうでしょう。
龍大 高齢の方も多いので、なんとか繋いでいこうとしている時期という感じですかね。空き家も増えています。
音楽家としての暮らし心地
盛星 龍大さんは音楽活動でも盛岡のコミュニティに深く入り込んでいらっしゃると思いますが。
龍大 12年くらい連続で、「盛岡さんさ踊り」の期間、「NEAT RECORDS」(レコードショップ)の前でストリートライブをやってたんです。毎晩3時間くらい。人がバーってめっちゃ通って、街が全力で活動していて、自分がその風景の中に入った感じがしました。桜山エリアはよくライブもしてたとこですね。
盛星 やってましたね! あの頃は移転前の「OOD」(カフェ)でもたくさんライブを見たなあ。
龍大 ちょこっとしたお店でライブが聴けたり、近場で自分の表現を発表できたり、そういう絶妙な狭さ、小ささに、なんとも言えない魅力があるなと思います。
盛星 このギャラリーがなくなると、ライブも困りますね。
龍大 ここで演奏会もやってるんですけど、まぁなんとかなりますよ。ここで暮らしながら染めをして、週末はドラム叩いてエレキギターばんばんやってるのに、全然文句が来ないんですよ。むしろどんどんやってくれみたいな感じで。
一同 へえ~!
龍大 染めの空いた時間に弾いて、時間になったらまた染め物にって。こういう活動が、商売は一旦忘れて生活の一部になってればいいですよね。
山代森(以下:森) 確かにそうですね。何が何でもこれで食べていくってなっちゃうと苦しくなっちゃうかもしれない。
龍大 森くんは、存在自体でなんか伝わるものがあると思うので、生活を素のままやればそれで結構伝わるんじゃないかなと思いますね。ぜひ続けていただければ。
森 はい!
大ケ生には盛岡より先に映画館があった?!
盛星 森さんは大ケ生にお住まいですけど、どんな所なんですか?
森 小さな集落ですが、かつては東北一みたいな規模の金山があったので、盛岡の街なかより先に映画館ができたり、電気が通ったりと栄えていたんです。そのせいか、外から働きに来た人を受け入れてくれる風土があるのかなと思います。
龍大 その感覚ちょっとわかります。鉈屋町もずっと商売してた所だからからよそ者を受入れてくれたのかなと。
盛星 なるほど。集落としてはどれくらいのサイズ感なんですか?
森 世帯数は150くらい。なので、人口はざっくりと300人くらいでしょうか。若い人もいるにはいますけど高齢化しています。広い里山の中に点々と家がある感じで、街へは車を30分走らせたら来られるのがいいなと思います。
盛星 300人のうち何人くらいお知り合いなんですか?
森 協力隊として入ったとき、何をすればいいかわからなくて(笑) でもとりあえず地域の人に知ってもらわないと何もできないと思って、自転車で集落の中を一軒一軒回ったんですよ。それが割と自分の中では印象的だったというか。こんなとこに家があるんだとか、ここのお父さんとここのお母さんは兄妹だとかそういうところがわかってきて。
盛星 それはとてもいい出会い方ですね!
森 ぼくの両親が移住者なので岩手らしい暮らしには触れてこなくて、方言も喋れないですし、食文化やお盆の風習も大ケ生に来てから知りました。樺の皮を燃やしてご先祖さまを迎えたりとか、正月にクルミ餅つくってとか、聞いたことはありますけど、それを実際に見ると岩手の暮らしを実感している感じがあります。
盛星 大ケ生での日常ってどんな様子なんですか?
森 朝の4時くらいに電話が来て「草刈り手伝ってくれないか」みたいなことがあります。
一同 笑
森 そういうことって、こちらが合わせた方が自分もやりやすいですし、気持ちがいいんです。そうしていると、みなさん野菜を届けてくれたりとかして。「地域おこし協力隊」なんて言ってますけど、自分の方が協力してもらってるというか、常に教えてもらっている感じです。
盛星 ああ、いいですね。
森 人の家の草ばっかり刈ってて自分の家のまわりの草がボーボーだと、「まずは自分のところをやらないと信頼されないぞ」とか。薪の積み方一つとってもそうですし、教えてもらってばかりだなと思いますし、どんどん吸収したいなというか。本当に地域のみなさんが気にかけてくれているんだなっていうのは思いますね。
龍大 かわいいもんね。かわいくて心配になるよね。
盛星 ぼくも森さんが近所にいたら寄りたくなります(笑)
龍大 森くん大丈夫かな~って。ちゃんと食べてるかな~って。
森 ありがたいですね。
おまけ「ドキュメント 藍染」
森 時間がいいですよね。染めてる時間。
龍大 そうなんです、ここの環境が本当にいいんですよね。小学校の子供の声とか。給食の放送も全部聞こえるんですよ。今日のメニューも丸聞こえ(笑)謎のクイズとかも全部聞こえる。
森 なんか、青とも違う。なんと表現すればいいのか。
龍大 特に絹だと、光沢の発色がきれいです。
森 自然でこの色になるっていうのはすごいですよね。
盛星 青い水ならまだわかるんですけど、茶色い水なのにどうして。
龍大 こうなったら今度は日光に晒してUVの力で焼き付ける。
森 写真にも近い感覚ですね。
龍大 森くんのシナ布にも染めてみたいです。
森 染めていただきたいです。そのために技術を上げて。
龍大 そしたら1千万円くらいつけましょう(笑)
森 あはははは!
終わります。
Photo: Yuki Chinen Edit: Yutaka Yaegashi
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