特集:夏は夜/対談「23時、桜山で」
2023/7/21
[対談]23時、桜山で 前編
コロナ禍を経て、街に人は戻ったけれど、なんだか夜の店仕舞いが早くなってしまったような。そんなタイミングで、夜の街を粋に楽しんでる馬場暁彦さんと、盛岡で活動するラッパーoozashさんに、この街の夜について聞きました。場所は閉店後の桜山「かもし処 陽-SUN-」。盛岡人の気質やコミュニティの雰囲気から、クラブイベント事情まで、ほろ酔い話は桜山の夜にふわふわ漂って……。
▼馬場暁彦さん
創業明治40年、わんこそばの店としても知られる「東家」の5代目社長。学生時代から10年余りをニューヨークで暮らし、帰国後は、自店の経営の傍ら、様々なイベント等に携わるなど、個人店が多い盛岡のコミュニティの中心的存在の一人。
▼oozashさん
KPOPや韓国HIPHOPをルーツにもち、"身から出る錆HIPHOP"を掲げ岩手県を中心に活動しているラッパー。2021年10月には1stEP 『AURORA』をリリース 、音楽に留まらず絵画展やイベント『O2』の主催、アパレル『SIMIGUMI』の運営など活動は多岐に渡る。
Scene 01 まずは一杯。
ウーザッシュ(以下「ウ」) …かんぱーい
馬場(以下「馬」) やばい、こぼしちゃった。
ウ あーうま。
馬 なんでウーザッシュっていうの? あ、待って、言わないで。……ウザいから? とか。
ウ あ、全然(笑)
馬 違うんだ。
ウ 実は意味がなくって。
馬 ないのか。
ウ 目瞑って打ったやつ、で、エゴサしていい感じで語呂かわいいじゃないって。
馬 なるほど。全然想像と違ってた。
ウ それはよく言われます、最初の頃は、つらつらと意味を含めて言ってたんですけどね。
馬 いま幾つ?
ウ 今月23歳です。
馬 23ちゃい。
ウ はい。
馬 俺、今年53ちゃいよ。
ウ ちょうど30個下だ。そんな感じはしないです。
馬 盛岡なの?
ウ ずっと盛岡です。もちろん馬場さんもですよね?
馬 おれ、城南、下中。(注:城南小学校、下小路中学校)
ウ 都会ですね。
馬 街っ子だね。
ウ うらやましい。
馬 だから遊び場が「中三」(百貨店)だったし。
ウ 都会。笑
馬 中三だし、岩手公園だし、肴町だし。
ウ 服屋さんとかいっぱいあった時期ですよね。そうか、いいなあ。
馬 すごいかな。
ウ いや、うらやましいですよ。
馬 言うても肴町だよ?
ウ でもなんか、肴町にはかわいい雑貨屋さんとかいっぱい。
馬 昔あったよね確かに。
ウ 「エレクトリック」だっけ、あのMOSSビルに入ってる雑貨屋さんとかも。
馬 でもね、90年代は盛岡にいないんですよ。88年に高校卒業して大学のため東京に出て、その途中でアメリカ行って、22歳から33歳まではアメリカにいたの。
ウ お仕事でですか?
馬 最初留学で、留学こじらせて、ダラダラと気がついたら11年いました。
ウ やっぱそうなるんだ~(笑)
馬 やっぱりって?
ウ いやなんか私の友達がとりあえずジャマイカ行くって言ってもう4年ぐらいで、今すごい有名なアーティストになってて。他にも来月ぐらいにアメリカに行く友達がいて、そっちも帰ってこない気がするんですよね。
馬 帰ってこないよ?
ウ ですよね(笑) 自分もちょっと行きたいなとか思うし、帰ってこなくなりそう……。でも盛岡も好きなので、なんだかんだいるんですけど、ずっと私は。
馬 若いときに盛岡好きって言えることってすごいよね。貴重というか尊いというか。俺全然好きじゃなかったから。
ウ ふーん?
馬 なんつうの。必ず誰かが誰かの知り合いなんだよね。
ウ そうですね(笑)
馬 本当に下手なことできないじゃん。それがすごい嫌だった。うちの親父はそこそこ有名な人だったからすぐに馬場さんとこの息子さんみたいな言われ方をする。だから大きな街行きたくて東京で大学通ってその後アメリカ行って。
ウ アメリカだったら絶対自分のこと知らない人しかいないですもんね。
馬 アメリカ行ったら俺が外国人なんで、外国人のステータス、じゃないけど、そこに属してない人っていう状況はすごい楽しい。
ウ 盛岡に帰ってきたのはいつ頃なんですか?
馬 えーと、2003年。ニューヨークでテロがあって、アメリカが一時的にすごい不景気になって、盛岡の実家でもいろんなことが重なって、これはもう帰るタイミングだなと。
ウ 盛岡かぁ……とか思ったりしました?
馬 思った! 11年間いて、その間1回しか帰って来てなかったからね。なんだろう、すごい新鮮は新鮮だけど、ちっちゃい!とか思って。道幅なんかもだし、今までアメリカでこの高さで蛇口ひねってたのが、こんな低くて。
ウ そこですか? (笑)
馬 でも、盛岡に帰ってきて、新幹線降りて盛岡駅からタクシー乗ったら、「吉野家」の看板がどっかで見えて、吉野家がある!ってすごい嬉しくなった。
ウ へぇ~!
馬 そして「スターバックス」が!みたいな。スタバって唯一自分とアメリカの繋がりだったんだよ、盛岡では。よく行ってた店がうちのすごい近所にできてるって思って。106ビルの。その存在がすごいうれしかったね。
ウ アメリカと盛岡って全然違うじゃないですか。東京とアメリカでも、東京と盛岡でも全然違うから。楽しい。盛岡。
馬 20代のいろいろ吸収できる時期をアメリカで過ごして帰ってきて、盛岡戻ってきて最初はもちろん凹むんですけど、でも今まで好きにやってきたじゃん!っていうのが心にあるわけ。盛岡にBLACKPINKが来るのは望めない。ただ新幹線で2時間ちょっと行けば東京で突出したエンタメが味わえるじゃない。だから暮らすってことに関しては、全然ありだなって思うようになった。でもウーザッシュぐらい若い子がその境地、盛岡が好きっていうのは珍しくない?
ウ 元々は上京しようと思ってたんですよ。でもコロナの時期になっちゃって、それこそ、なんか元々10代の時とかは、こんな何にもねえ街出てってやるって。
馬 そうなんだ。
ウ 盛岡すごい好きで、岩手好きで、移住してきました、みたいな子と仲良くし始めてから案外いところなのかも、とか思い始めて。そしたら「BOOKNERD」さん(書店)だったり「CIY」さん(セレクトショップ)とか、結構こっちでも好きな場所っていうのが、ピックできるようになってきて。自分の中でそういう面では、何て言うんですかね、なんか変わった人たちが集まってんなーって(笑)
馬 変わった人たち……(笑)
ウ 多いなーと思って。それを思うとちょっと楽しくて、まあ住んでるから、住んでれば都みたいなところもあるじゃないですか。なんか愛着が湧いてるのもあると思うんですけど。
馬 一回外に出てから帰ってきたらまた面白いのかもね。
ウ 東京にもレコーディングなんかでちょこちょこ行ってはいます。コロナ前は毎月行ったり。最近は色々出れるようになって、韓国とか、それこそ東京とかいろいろ行ってみようかなっていうのはあるんですけど。今のとこなんか盛岡は好きになっちゃいましたね。
>>> Scene 02 盛岡の夜のコミュニティや音楽シーンについて語ります。
取材協力:
かもし処 陽-SUN-
盛岡市内丸4-19
Photo: Takugo Miwa Edit: Yutaka Yaegashi
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