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盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。 盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。

盛岡という星で 盛岡という星で

特集 ことば/誌上読書会「盛岡ノートを読む」後編

2024/2/26

 

 

昨年増刷が決まり、再び書店に並び始めた「盛岡ノート」。1938年、詩人で建築家の立原道造が盛岡で過ごした1ヶ月を綴った手記を元にした一冊です。

東京から訪れた立原道造のように、他県からこの地へ縁をつくった若い二人の目に、盛岡はどう映っているのでしょう。書く人でもある彼らの話は、まちの未来へと展開します。

 


「盛岡ノート」立原道造

販売場所:盛岡市内書店(東山堂・さわや書店・ジュンク堂書店)、もりおか町家物語館、野の花美術館 等
お問合せ先:いわてアートサポートセンター風のスタジオ 019-604-9020
https://iwate-arts.jp/archives/5530

 


佐藤しおんさん(写真左)/新聞記者 盛岡市在住

神奈川県葉山町出身で、就職を機に盛岡へ移住。岩手日報社報道部の記者として、主に盛岡市および周辺を担当。この街で暮らし始めてもうすぐ1年を迎える。

加藤大雅さん(写真右)/編集者 秋田県在住

愛知県出身で秋田県の小さな集落・根子に暮らす。編集者として企業のブランディングや商品開発、建築や街づくりの構想などに関わる一方、独自に本屋や読書会の活動も行う。盛岡にも頻繁に訪れる、関係人口の一人。


 

>>> 前編 盛岡ノートを知っていますか?

 

Scene02

 

書くことはより良く生きることに繋がる

編集部 しおんさんは書くのがお仕事じゃないですか。

しおん はい。

編集部 そういう立場でこの本について感じるところもあったかなと思うんですけど。

しおん そうですね。書く仕事をしてると、結局同じ表現に行き着いちゃうんですよ。頭の中ではその人がこんなふうに語ってたっていうのがあって、それを伝えたいって思うけど、自分の持ってる言葉ではなかなか表現できないし、そもそも言葉で表現できるものなのかみたいなところもあったりして。だから72ページの「(景色を言葉で表そうとするけど)沈黙は耐えられない しかし 言葉はすべてに形と影を与えてしまうだろう」っていうのがなんかすごい共感するというか、なるほどなと思って。

大雅  うんうんうん。

しおん 例えばすごく美しいものについて、何かで伝えたいし表現したいんだけど、でもそれを言葉にすることで、本当はもっと違う表現もできたかもしれないのに、それで固めてしまうのがすごくもったいないなって、もどかしさを感じたりします。

大雅  立原さんは、書き記すときに、確かに自分の中で、あの手この手で文章を組み立てて形と影を与えてしまってはいると思うんですけど、それでもその人独自の視点があってそう書くのであれば、意味はあるのかなと思ったりもします。

しおん 確かにそうかもしれませんね。

大雅  自分のために書くことってありますか?

しおん 気が向かないとなかなかないんですけど、心に留めておきたい出来事があったりとか、ムシャクシャした時とか、これは後で笑えるなって思うこととかを、サッて書いたりしてしてます。

大雅  自分のことを自分の言葉で書いていくのは、輪郭をはっきりさせていくことになると思うんです。ここ12年、旅のエッセイを書いたり、友人とニュースレターを配信したりしていますが、結局、書くことはより良く生きることに繋がるなって思ってます。自分がそのときにこう思ったとか、書いて気付くこともあるので、すごい大事だなと感じるようになりましたね。

しおん ああ、たしかに。普通に生活してると、自分の感情とかもそのままサラサラ流してしまうし。私、あんまり気にしない性格なんです(笑) 寝たら忘れちゃうぐらいなんですけど、流さないように書き留めておくっていうのは、大事にしなきゃなと思います。

大雅  盛岡はそういうことができる場所がいっぱいありそうだなっていう感覚がありますね。さっきの喫茶店とかもそうですし、別に中津川あたりで書いてもいいと思うんですけど、何かそういうちょっとストップしたり、逃げ込んだりみたいなことができそうな場所が多そうに思います。何がそう思わせるのかわかんないですけど。

しおん 確かに一人になれたり、ちょっと孤独を感じられるみたいな場所がありますね。何か書きたいとか、自分についてちょっと考えたいっていうときに、ここに行こうっていうのが思い浮かんだりがするので、やっぱり居場所を見つけやすいんだと思います。

大雅  そういう所はうらやましいなと思って見てますね、盛岡は。

しおん そうなんですね。

大雅  たまに来るだけだとやっぱりいろいろ行きたくなっちゃうんで。

編集部 詰め込んじゃう?

大雅  そう、住んでないとわからないことがやっぱりあるんです。盛岡に来て中津川でぼうっとしてるみたいなのは、まあやりたいですけど、2時間かけて来てやることかって思うし(笑)

編集部 誰か部屋貸してくれないかなみたいな(笑)

大雅  ルームエクスチェンジしません?って(笑)

しおん そうやって聞くと、もっとダラダラと時間を過ごしてみようかなって思いました(笑)

 

 

盛岡は何もないよって言うけれど

大雅  あとは自然の距離が近いですよね。シンボルが一個あるとやっぱりいいなって思います。

しおん たしかに。

大雅  岩手山がボカンって見えてたりとか、そういうみんなが一日の中で絶対見かける何かがあったり。ここから見る岩手山が好きみたいなのがそれぞれにある気がして、そういうのはいいなって思います。

編集部 通りすがりの人ともね、今日綺麗ですねって話をしたり。

しおん 地元の風景を大事にできる人がたくさんいるのは素敵だなと思います。毎日見る景色って素通りしがちですけど、通勤で通る開運橋では、必ず一人は足を止めて岩手山の写真を撮ってるんです。観光客だけじゃなくて地元の人が毎日誰かしら撮っていて。

編集部 うんうん、わかります。

大雅  僕の集落も、トンネルを抜けるとそこがすり鉢状になってて開けるんですけど、綺麗なときにはみんな写真を撮るんですよね。たぶん何十年って見てる景色なんだけど、撮ってて嬉しそうなんですよね。

しおん こちらの方は、いや、盛岡は何もないよって言うんです。でもそういう言葉の裏に、実は何か地元にしかわからない良さがあるんだぜみたいなのを、最近はちょっと感じたりしますね。

大雅  何もないんだぜ、けどでもいいとこだよみたいな?(笑)

一同  笑

しおん みんなある気がしますね。一回来るだけじゃわかんない街だなっていうのは思いますね。

編集部 就職する前も来てました?

しおん 一回だけインターンシップで。

編集部 それが初めて?

しおん 初めてでしたね。2月とかに。

編集部 結構寒い時期。

しおん 住んでみて、やっぱり寒いなって思ってます。

編集部 今年の冬はまだ暖かいけど?

大雅  もっと寒いんだぜマウント?(笑)

編集部 まだまだだぜマウント(笑)

しおん 寒さは共有したいって思います、誰かに。

大雅  たとえば?

しおん 神奈川の知り合いとかにです。こんな寒いのをわかってよって(笑) 年末に帰ったら、夜でも薄いコートでいいくらい暖かくて、それで友達が寒い寒いと言ってると、いやいやいや、ちょっと来てみてって(笑)

編集部 本当だよね(笑)

しおん 寒いんでしょ、行かないよって言われるんですけど(笑)

 

 

文化的欲求がたまると来る

しおん そう言えば土日とかに、いろんなイベントをあちこちでやってるのも予想外でした。小さい催しとか地域の自治体のとか、あとはコーヒーフェスみたいなイベントが毎週のようにどこかでやってる。

大雅  僕は平日に来るのも好きですね。休日は人が出ていてそれはそれで楽しいんですけど、なんかもうちょっと落ち着いて過ごしたい時とか。映画も一本見て、みたいにして。 

しおん こんなに映画館選べるのいいですよね。

大雅  映画館通りがまだあるってすごいです。

しおん 全国でもあまりやってないのが盛岡で見られたりするので、ここにいて良かったって思います。

大雅  文化的欲求がたまってくると盛岡に来たりしますね。

編集部 へえー。なんか摂取したい、みたいな時?

大雅  はい、とりあえず本屋行きたいとか、映画見たいとか。「BOOKNERD」さんとか行って、映画館に行って、喫茶店行って、ですね。それはいつもしてます。

編集部 そうなんだ。

大雅  点でというより、その街を歩いてる時間も良かったりするので、そういうのも含めてですかね。

しおん 飽きないですよね歩いてて。

 

 

もう少し違う回答を、街として出せる力がある

編集部 逆に盛岡がこうだったらいいのに、みたいなことはありますか?

しおん それを求めてしまうとなんか盛岡じゃなくなっちゃう気がします。私はミュージカルや美術館が好きなので、エンタメ的にはもう少し何かないかなって思ったりはするんですが、それをここに求めてはいけないような気もして。

大雅  どうやったら盛岡らしいままでいられるかみたいなのを、トライして示していってほしいなって外からの目線では思います。開発によってこの辺の地価が上がって、元々住んでた人や商売している人が出なきゃいけなくなる、とかは全然起きうるなと思うんです。僕はそれが嫌だなって感じていて、そこに対してもう少し違う回答みたいなものを、街として出せる力が盛岡にはあるんじゃないかなと思ったりはします。

編集部 どう変わらずに。

大雅  そう、どう変わらずにいられるかみたいな。

編集部 チャレンジ。

大雅  絶対ちょっとずつ変わっていってはいると思うんですよね、新しいお店ができたりとか。でもそれが全体として街のトーンの中で行われるのは大事かなと。例えば、神奈川県の真鶴町だと町で「美の条例」っていうのがあって、建築のトーンとか、こういう路地が真鶴では美であるみたいなことが全部言語化されて街が保たれていて。

編集部 うんうん。

大雅  倉敷みたいに美観地区としてがっちり守るのとも違って、盛岡はちょっとずつ変わってはいるんですけど、全体的なトーンを踏襲している感じを受けます。多分いろんな年代の建物があるし、たまに醜いやつとかもあるかもしれないですけど、全体としては守られてる。それは、街の人たちが共有している何かがあるんだろうなと。そこの部分はどうにか担保しつつ、もちろん変わっていくことは必要かもしれないけど、どう残っていくのかみたいなことには興味があります。

しおん 取材をしていると、もうちょっと売り出し方があるんじゃないかって思うこともたくさんあるんです。その不器用さがいいって言ってしまえばそれまでなんですけど、人口がどんどん減っていく中で、どう街の形を保っていくかって考えたときに、やっぱり外からの力も必要になってきます。そうするとある程度の発信力というか、盛岡の良さを崩さずにどう伝えていくかみたいなところは大事な部分になってくると思うので、そこはちょっと期待したいです。

大雅  うんうん。

しおん でも期待だけしても多分変わらないなとは思うので、そういう意識のある人たちでどうにかしていくっていうのが必要で、盛岡とか岩手ってその草の根の力というか、地元の人が何かしようっていう力が割と強いなって思うので、何かできるんじゃないでしょうか。

 

最後に

編集部 最後にこの本は、どんな人が読むといいと思いますか?

大雅  例えばこれからどこかに行く人。北に行くようなときに読むと、何かちょっとモードが切り替わったりするっていう感じはしますね、

しおん 私は結構共感できたところがたくさんあったので、同じように単身赴任とか、盛岡に住み始めた人とかに読んでほしいなって思います。引っ越してすぐは、何もない街じゃんみたいな思いがあるかもしれませんが、それをどう自分なりに楽しむかについて考える機会になるので。この景色を自分だったらどう表現できるかな、なんて考えながら読むと、自分なりに盛岡をどう深掘れるかっていうのを見つけられるんじゃないかな。長期滞在するとか、ちょっと県外から来たような人におすすめしたいです。

編集部 単身赴任する人これから多いですよね。盛岡に決まったっていう人もきっと。

しおん 私が知ってる単身赴任の方とかも、盛岡が気に入ってらっしゃる方多いんです。いやもっと本当はもっと居たいんだけど、2年で異動になって、とか。

編集部 盛星にはそういう人の声がよく届けられます。一度住んだことがあってとか、第二の故郷ですとか。

しおん そうなんですね!

編集部 お二人、今日はありがとうございました! 今日は盛岡っていい街だなと思いながら帰れそうです(笑)

大雅 しおん ありがとうございました!

 

終わります。

 

 


取材協力: 紺屋町番屋 https://konyachobanya.com/
Photo: Mari Sugawara   Edit: Yutaka Yaegashi

 

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