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盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。 盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。

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特集:夏は夜/編集長コラム「夜は上下」

2023/7/29

 

「夜は上下」

 自宅から職場に向かい到着も束の間、最初の打ち合わせに挑む。プロジェクトのゴールや納期やミッションに向かって走る。昼は前方向のエネルギー活動で満たされている。移動距離や歩数やタスクの数で表現するのがぴったりな昼。一方、夜はどうだろう。好きなものを思う存分に楽しみ心躍りアガる夜もあれば、日中の恥ずかしい言動を省みて落ち込み隠れる穴を懸命に掘る夜もある。夜は上下方向のエネルギー活動だ。浮き沈み、昇り降りの夜がはじまる。

 さんさ踊りの太鼓のバチが高く掲げられ、奏者が夜空を仰いだ瞬間、誰しもシャッターを切りたくなる。さんさ踊りは上下の動きに注目するとよりいっそう魅力的に見えてくる。パレードのせいで前に進む印象を強く与えがちだが、ぜひとも上下の観点で見て欲しい。踊りの手運びは上下の運動幅があればあるほど美しいし、やわらかな膝の上下運動が加わって弾んで波打つ舞となる。さらに伝統さんさは、深く腰を落とした姿勢や飛び跳ねる動きも多く複雑で見応えがあり圧巻だ。

 当たり前に明日が来てしまう予感がする夜は、今いる地面よりは上に向かいたくなる。車を持たない僕を岩山に誘ってくれるのは気の置けない友人だ。行く理由は、夜景を見る、星を見る、なんとなく、の3つ。盛岡の夜景は巨額な値段がついているわけではないが目を凝らすと普段の居場所を見つけることができて味わい深いし、素直にきれいだ。そして岩山にはたくさんの恋人たちがいるのも良い。恋人たちが安心して時間を過ごし思い出を作れる場所が沢山ある街は良い街だと思う。

 ライブハウスやクラブに音楽を聴きに行くのも夜ならでは。会話を自分で繰り広げる必要がある大人数の飲み会よりも気楽で心地よい時間。地下への階段を降りると、足元から徐々に体を濡らすように音が体全体を覆ってくるのがわかる。音を浴びるという表現はよくあるけれど、大きな音響で聴く音は液体みたいだ。聴くというよりは肌から吸収しているような感覚。そうだ、先日知人に聞かれた質問にここで答えておきたい。クラブにも椅子とソファはあるので立ちっぱなしじゃないよ。

 大学の最初の夏の夜、仲良くなってまだ間もない友達と遊んだ。23時に思いついた遊びは、ビニール傘を倒してその方向に進み、分かれ道や行き止まりがあったらまた傘を倒して行先を決めるものだった。運任せのように見えて実は見晴らしのいい高い場所に向かおうとくり返し傘から手を離していた気がする。最終的に辿り着いたのは御厩橋。橋のゆるやかなアーチとカーブで、何度も車のライトに僕たちの顔は照らされていた。友達の顔が真っ白に明るくなる瞬間「じゃあね」といって解散した。

 Googleマップで俯瞰しておすすめスポットをつないでなぞる。そんな平面で楽しむのも良いけれど、もしこの街に住むのなら夜の楽しさは上下で測ってみたい。三次元で街を捉えて、自分だけが理解できるディテールに触れ、立体的に夜を感じてみたい。夕方、心の上下エネルギーをダイレクトに使って動き出したら、y座標軸をしっかり掴んで夜を踊ろう。朝になれば平坦なベッドで目を覚ますから大丈夫。

盛岡という星で メディア編集長 清水真介

 


 

 

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