特集 植物/うこぎのほろほろという呪文
2024/7/25
祖母の街には、白ごはんが食べたくなる呪文がある。
父も、わたしも、罹っている。
春が来ると、ほろ苦いあの味を口が勝手に思い出して、居ても立ってもいられなくなる。
材料はくるみと味噌漬け大根、そしてうこぎの若芽。
産直にだって並ぶけれど、ばあちゃんは表の生垣から摘んでくる。
とげには気をつけないといけないよ。
ちくん。指に刺した後で、そう教わった。
食材を刻む。
箸で取ろうにもほろほろ逃げるくらいにこまかく。
桜の根が岩を割る根気強さと、つばめが巣を編む几帳面さで、こまかく、こまかく、こまかーく。
冷蔵庫にはばっけもあった。
これはきゅうりで頂こうかな。
鍋いっぱいに炊いた熱々ごはんを茶碗に盛って、
春の香りをこんもり彼して。
こりこり、
しゃきしゃき、
ほろほろ。
こりこり、しゃきしゃき、ほろほろ。
こりこり、しゃきしゃき、ほろほろ。
こりこり、しゃきしゃき、ほろほろ。
どうしてお腹はいっぱいになるんだろう。
もっとずっと食べてたいのに。
祖母の街には、白ごはんが食べたくなる呪文がある。
父も、わたしも、罹っている。
ごちそうさま。
また来年。
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