盛岡という星で ThePlanet MORIOKA BASE STATION

盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。 盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。

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FA店 みししっぴ饂飩

2024/3/29

 

10年以上25年未満の代替わりしていない小規模店。F(古すぎず)A(新しくもない)通称「FA店(エフエーテン)」。老舗特集にも新店特集にも載らない、でもきっと誰かの目的地になっているFA店の、今までとこれからのお話。盛星編集部がじっくり伺っていきますよ。

 

大坊正一さん、大坊加奈さん/みししっぴ饂飩


 

オープンまでのこと、おしえてください。

加奈)私は福岡生まれなんですよ。主人とは東京で専門学校が一緒でした。服飾デザインを勉強していました。

子供ができて引っ越しを考えていたときに、主人の実家、盛岡のお父さんが病気になったって聞いて帰ってくることにしました。私自身はどんどん北上してきた感じですね、福岡東京盛岡。

正一)引っ越したのが2月、盛岡はドカ雪でした(笑)

おいくつのときですか、盛岡に戻ってきたのは。

正一)僕が28歳で。

加奈)私が30歳かな。福岡で里帰り出産して盛岡に帰ってきてからは、主人も私も外で働いていて。でも「何かやりたいね」って話は2人でしていました。お店とか、何か自分たちでできないかな?って。

正一)盛岡って、苦手な部分もあるんですよ。人間関係だったり、街の狭さとか。東京から引っ越してきたばかりの身からすると、独特のちょっとのんびりした空気も感じて、「これは勤めに出るんじゃなくて自分で何かやった方がいい」って切り替えたんです。それで、昔から好きだったうどんはどうかなって。

加奈)私の故郷福岡にも「博多うどん」っていうのがあるんです。

正一)さぬきうどんとはまた違って、ゆるゆるの太麺にあごだしでめっちゃうまいんですよ。でっかい牛蒡の天ぷらが上にドンッとのっかって。

加奈)そうそう、だからラーメンも好きだけど、うどんも大好きなんです、でも盛岡ってうどん屋さんが少ないなーって。

正一)で、「うどん屋、いけるんじゃない?」って言い始めたのが僕が33歳、奥さんが35歳の頃です。そして2011年に震災。下の子がお腹にいて、その年の9月に生まれました。震災のあとはすぐに会社を辞めて店の開店に向けて動き始めました。

 

どんなふうに開店までのプランを立てたんですか?

正一)とりあえず僕はうどん作りど素人なので、プロの人に「技術を学びたいから無給で働かせてもらえないですか?」って、片っ端から電話して。それで受け入れてくれた店まで行って教わりました。香川でも修行して、最初はお互いによそよそしいんですけど、しまいにはもう「帰らないで社員で働いてくれ、就職したらいいじゃん」って言ってもらいましたね(笑)

加奈)その頃私は、0歳の息子と7歳の娘と3人で暮らしていました。主人は店のオープン日を決めてから行ったんですよ。修行に行く前にいろいろ準備をしてから「じゃあ修行に行ってくるから!」って出発しました。

タイムラグがないようにしたんですね、修行に行ってからお店の工事をはじめると、時間がかかっちゃうから。

加奈)そうそう、わたしは子育てをしながら工事周りの調整をしたり、打ち合わせしたり。

正一)本当に全部段取りしてから行ったので、オープンまでスムーズでした。

昔からそういう感じですか?目標が決まったら、ゴールを決めて、段取りを組んで

正一)野球をずっとやってたんです、ちっちゃい頃から。いまだに地区の早起き野球も出てますよ。野球ってシミュレーションが大事なんですよね、結局チームプレーじゃないですか。それを指揮する人がいてどう化学反応するか?みたいなところがあって。それを長年やってきていたので店をやるのも同じように、と思いました。

加奈)店に搬入が始まって、メニューの試作を重ねて。オープンのときは5つしかメニューがなかったんです。ぶっかけのざるとかけ、エビ、揚げ餅、舞茸。とりあえず場数というか、実際にやってみないとわからないよね、って。

正一)オープンの年が一番頭使ったな。人生で一番、脳みそフル稼働!本当にやりたかったことなので当然ですけどね。実際にやるのって自分たちだし、後悔もしたくないし。

加奈)オープンしてからもいろいろアクシデントはあったけど東京時代にいろんな職種を経験していたから乗り越えられたのかな。私達、東京ではバイクが好きでハーレーに乗ってて。盛岡にくるとき、手放しちゃったんですけどね。20代、子供が生まれるまでは本当に遊んでて、自分がやりたいことに近づけているような、近づけていないようなちょっとモヤモヤした感じはありました。

正一)本当そう。うどん屋をやる!って決めたときに初めてやる気が出た。今考えるとずっと探してたんだと思います、いろんな仕事をしてもマッチしない、テンションがあがらないんですよね。盛岡に帰ってきて、震災を経験したことがきっかけでベクトルがピンッ!って出て、目標に向かって全部最短で!っていろいろ段取りし始めて。

震災で、自分の無力感を感じたんでしょうね。やっぱこのままじゃ駄目だなって。何かをやるタイミングだ、と思ったし、闘争本能に火がついたような。うん、スイッチが入った年でしたね。

貯蓄もなかったから。そこから資金調達についても自分で調べたり、知ってるお店の人に聞きに行ったり。会って、話を聞いて、自分でも考えて「とにかく最短で」っていうことを考えていました。

 

そして2012年の秋にオープン。この日に決めたのはなぜですか?

加奈)オープン日の1週間前が息子の誕生日なんですよ(笑)誕生日を祝ってからにしようか、って、カレンダーを見たら大安だったのが19日でした。

正一)オープンの日は結構混みましたね。昔、チラシ配りのバイトをしていたので、そのときのやり方を思い出しながらポスティングしたおかげかな、近隣のお客さんもたくさん来てくれて。お店のレイアウトはオープンのときと全然変わってないですね。

レイアウトに限らず、うちはあんまり変わってないんですよ。うどんの味もですけど、やりたいことも変わってない、うん。本当、地道に続けてるだけなんで。メニューの種類はお客さんから言われてどんどん増えましたけど(笑)

加奈)オープンのとき5つから始めたけど、ちょっとずつ季節限定メニューをやったりしてたら「定番にして」って声をいただいてメニューに残したり。今はかなりの数あるので、仕込みは大変ですね。

10年目の頃はいかがでしたか?

正一)コロナのときはやばかったですね、ちょうど10年目。うちの店も店名公表されて、もう潰れたなと思いました。

加奈)コロナに対しても今とは全然空気が違って。あのときは本当に大変だった。

正一)考えてみたらね、みんなそれぞれ大変でしたよ。

加奈)「店を長く閉めてると逆に良くないかもしれない、お客さんが誰も来なくてもいいから最短で開けよう」ってなったんだよね。休んだのは2週間。

正一)その頃からです、僕、お客さんとたくさん喋るようになったの。それまでは寡黙な店主キャラだったんだけど、おしゃべり店主にキャラ変(笑)自分の言葉で「コロナ大変だったよ~」ってしゃべっていかないとお客さんにも伝わらないから。

  

(店内の看板をみながら)あれ、そのときにバツしたんですか?

正一)そうそう、10年のターニングポイント。あのバツ印はその証です(笑)

加奈)休業明けも知り合いとか、友達とか常連のお客様が心配して来てくださって。でね、なんとか。

正一)なんとかね。そのタイミングで本当に移転しようかなって考えたりもしました、海外に出店しようか、とか(笑)。そのくらいお店をやってきた中で大きな出来事でした。

心に残っている言葉、教えてください。

加奈)夏休みで日本に遊びに来たアメリカ人の小学生の男の子と、おじいちゃんのお客さんがいたんですけど、うちのうどんを食べて「amazing!」って言ってくれたんです。それがずっと忘れられないですね。

正一)一番嬉しいのはやっぱり、「美味しかったよ」って言われることですね。シンプルですけど、飲食業でその言葉って最大の褒め言葉だと思ってるので。ああ、店をやっててよかったなって思います。

加奈)「ご馳走様です!」はよく言われるし、もちろん嬉しいし、その中に「美味しかった」も含まれてるんだろうな、って思うんですけど。直接聞く「美味しかったです」は特別ですね。

うちはSNSもあんまりやってないんですよ。でも、実際に来てくれた方が感動して、「美味しいね」って言いたくなるものを食べてもらえればそれだけで嬉しいなって思うんです。SNSやったほうがいいよ、ってたくさん言われるんですけど(笑)SNSに時間をかけるよりも、来てくれた方に最大のおもてなしがしたいし、お店に来て感じてもらえた方が嬉しいなって。

 

この先のみししっぴ饂飩について教えてください。

正一)変わるものと変わらないものはあると思うんですけど、うちの場合は圧倒的に変わらないものの方が多いのかなって。もちろん、時代に合わせて変化していかなきゃいけないんですけど、とりあえず、11日しっかりやっていきたい。変わらないんじゃなくてアップデートはしていく。めちゃくちゃ儲けたーい!とかそういうのじゃないんです、自分たちらしいお店っていう芯の部分は変わらないように。

加奈)毎週来てくださる70代のご夫婦がいるんですよ。オープンの11時ちょっと前になるとお店の前で待っててくれて、今日寒いですねとか、雪多いですねとか、お話をするんです。「食べることが楽しみなんだ」って言うお2人の言葉がとても嬉しい。だから、例えばですけど、見えないくらい広い店で営業っていうのは嫌で。目の届く範囲でいろいろ雑談もしながらやっていきたいです。

正一)自分たちも老後を考えた時に「こんなふうになれたらいいな」って思ったり。お客さんからいろいろと学ばせてもらっています。

2人でお店をやるって、どうですか?

正一)前は、ぶつかってたよね。だけどお互い年齢を重ねてまるみが出てます。

加奈)ケンカもたくさんしますよでも、相棒的な感じです。「あ、そっちをやるんだ。だったら、私はこっちをやるよ」って、違う角度から仕事ができるので、やりやすいですね。

正一)夫婦でお店に立って、お店の顔が2人いることで、僕はうどんを作ることや仕込みにしっかり集中できるし、その間は彼女が接客に立つ。役割分担。うどん屋って大変なんですよ、仕込みが。

営業時間は11時から15時で4時間。短く感じるんですけどね、仕込みは倍の時間がかかります。だから定休日も仕込みに来ていますよ。

製麺業者からつゆも麺も仕入れるお店も多いんですけど、修行先でもちゃんとやってるのをみて、教わってきたので。だから自分たちも丁寧に丁寧に仕事をする、それを変わらずにやり続けていきたいです。

 


みししっぴ饂飩(2012年9月19日オープン/盛岡市月が丘3丁目30−8
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