盛岡という星で ThePlanet MORIOKA BASE STATION

盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。 盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。

盛岡という星で 盛岡という星で

FA店 LOPPIS 153

2024/6/30

 

10年以上25年未満の代替わりしていない小規模店。F(古すぎず)A(新しくもない)通称「FA店(エフエーテン)」。老舗特集にも新店特集にも載らない、でもきっと誰かの目的地になっているFA店の、今までとこれからのお話。盛星編集部がじっくり伺っていきますよ。

 

小泉佳恵さん/LOPPIS153


 

学生時代の小泉さんについて教えてください。

出身は盛岡です、盛岡生まれ盛岡育ち。高校生の頃、映画館通りにソニプラができて、「何だこれ?!」とびっくりして、かなり通いました。TIPI、大中も大好きだったな。裁縫や細かい手作業は嫌いではなかったけど、長続きするタイプではなかったですね、飽きっぽいんですよ、私。雑誌はOlive(オリーブ)が好きで読んでいましたね。

母が雑貨が好きで、家を飾るのも好きでした。当時も一緒に買い物に行ってたし、今も行ってます。…洗脳されたのかな(笑)小さい頃、周りの友達はキティちゃんやリカちゃんの自転車に乗ってたんです。私は乗れるようになったのが遅かったので小学5年生くらいのころにやっと自転車を買うことになったんですけど、母がキャラ物は嫌だったみたいで、みんなと同じようなのは買ってもらえませんでした。靴や服もそうですね、でも、弟は着てたんですよ、キャラ物。私もキャラクター大好きっていうタイプではなくて「大人の服もそれなりにかわいいからいいよ」って感じだったのでいいんですけどね。

ただ、ノートとかは買ってましたよ、フィリックスが好きでした。あとミスタードーナツのポイントを集めてオサムグッズと交換するのに夢中でしたね。父が飲み会に行くときは「絶対ドーナツ買ってきて!」って頼んだり。

 

高校卒業後は東京の専門学校に進学しました。1年だけでしたけど、お店のディスプレイやショーウィンドウの飾り付けを勉強する科に通って、盛岡に戻ってきてからは作業補助として測量の会社で働き始めました。提出用の資料作りを任されていたんですが、今みたいにデジタルではないので、大きい紙の地図にポスターカラーを薄くして色を塗っていくんです。ここは畑だから緑、道路になるところは薄いグレー、ってひたすら塗り絵。ちっちゃいおうちの屋根も1軒1軒、色鉛筆で塗って。それが楽しくて楽しくてしょうがなかったですね。そこでは10年ぐらい働かせてもらいました。

そのうちに「海外に留学してみたいな」という気持ちがちょっとずつ出てきて、普及し始めたインターネットで「〇〇の留学日記」みたいなのを探して読んでいました。最初は北欧じゃなくて、イギリスの靴を作る学校がいいなあって思って。27歳から2年おきくらいで「留学したい」っていう気持ちが高まる時期がありました。でも、イギリスで留学するにはTOEFLの基準もあるし留学費用もかかるし…って言っているうちに世の中が北欧ブームに突入したんです。

 

北欧じゃなくてイギリスが候補だったんですね。

オリーブ世代的には、イギリス、フランスの雑貨もドンピシャなんですよ(笑)そのあと30歳ぐらいのときに、北欧にもちょっと面白そうな学校があることを知り1年間留学して、FOLKHÖGSKOLA(フォルクへグスコーラ)という学校に通いはじめて。日本語だと国民高等学校って言うんですけど、カルチャースクールみたいな気分で来る地元の人もいるし、大学に行く前の高校生が足りない分の勉強を補うために通っていたり、移民の人もいます。どうせ留学するなら、言葉だけを勉強するんじゃなくて、なにか作ったりしたいと思っていたら機織りができる「手を動かすコース」というのがあったんです。

クラスの中に日本人は私だけで。全員女性でしたね。近所に住んでいるおばちゃんも多くいて。一番下は18歳くらいの子がいたかな。年上の方に対して、日本だと〇〇さんって苗字で呼ばないと失礼だと思うんですけど、先生も含めて全員下の名前で呼び合って。ゆるく楽しくっていう感じの1年でした。

機織りの授業では、白樺のカゴや、古い道具が当たり前に使われていて「かわいいなあ」って見ていました。まだ雑貨屋をやりたいとは思っていなかったですね、帰国後は東京で事務職に就きました。「北欧には、たまに旅行で行ければいいや」って思ったんですよ。

32歳で留学して、33歳ぐらいで日本に戻ってきたんですね。

そうですね、そのあと東京には4,5年くらいいて、親戚のおうちに住まわせてもらっていました。そのころも「雑貨屋さんやっぱりいいよなあ、でも東京では難しそうだなあ」と思っていて。激戦だし、家賃も高いし。実は、昔、今の店がある場所の上の階に住んでいたんですよ。家族が体調を崩したことや震災も重なって「盛岡に帰るか!」という気持ちになりました。それに加えてこの場所もタイミングよく空いていて、じゃあここでお店をやろうかなって決めたんです。

その頃の盛岡には北欧の古い物を扱う雑貨屋さんもなかったし、留学していたときにスウェーデンで知り合った人もいるし、買い付けに行っても何とかなるだろうと思って。帰国するときにもいろいろ買ってきてたんですよ。まさか雑貨屋をやるとは考えていなかったんですけどね。…なんだか「頑張った、私!」っていう感じの話じゃなくて申し訳ないんですけど(笑)

 

お店を始める準備ってどんなふうに進めたんでしょう?

思い返せばいろいろタイミングが良かったんです。休職しているときの職業訓練で簿記を教えてもらうコースがあったので受講できたり。商工会議所がやっている創業塾にも行きました。税務署に勤めてる友達からは、青色申告会の勉強会を教えてもらったし。いろんな人に助けてもらいましたね、ありがたかったなあ。

オープンの日はどんな感じでしたか?

めっちゃゆるいスタートでした。どう宣伝してもいいかわからなかったんですがFacebookはやっていましたね。でも、そんなに商品数も多くなかったし。とりあえずこっそり開けてみようっていう感じでした。

ゆっくりやっていきましょうっていう気持ちをこめて、末広がりの8月8日にオープンにしました。最初は全然、お客様は来なかったです(笑)

買い付けはどんなふうにしているんでしょう?

だいたい2週間前後の日程で行きますね。スウェーデンだと留学していた学校があるダーラナという地方をレンタカーで回ります。フィンランドだったらヘルシンキに泊まって、そこから日帰りできるところに行きます。北欧って中古屋さんが多いんですよね。チェーン店もあるしちっちゃいところもあって。

個人のお店みたいなところだと、ブースをいろんな人に貸してて。すごいまぜこぜです、工具ばっかり置いてあるブースの隣にがっつりヴィンテージがあったり。そういうところに行くとたまに「は!!」というものとも出会えるんです。

買い付けに行くのはすごく楽しい。でも行ったら行ったで、「何も見つからなかったらどうしよう」みたいな気持ちもあります。会社に勤めているわけじゃないからストレスはすごく少ないとは思うけど、たまに「あれやって」って指示されたい、って思ったりします(笑)なんでも自分で決められるから、それがいい場面もあるけど。誰かに相談したいな、と思うときも1人だったりするんですよね。

旅って、いろんなアクシデントが起きますよね。醍醐味だとも思うんですけど。

せっかく行ったのに、臨時休業って何…?みたいなこともあります。北欧自体は真面目な気質、基本的にはね。オープンは10時って言ったら、10時にちゃんと開いてる。日本とちょっと近いかもしれないですね。旅してるといろんなことが起きるんだけど、私、基本的に幸せだって感じるゾーンが広めなんですよね。満足ハードルは相当低いところにあってうん。宿に無事着いたからいいよねとか、怪我しなかったからいいよね、とか。ビール飲んで、「うん、いい日だったな」って。あんまりいろいろ考えない。今日がよければいいよ、って(笑)

 

オープンしてちょうど10年ですね。オープンのときと大きく変わったことってありますか。

昔はコーヒーも出していたんですよ。コロナの頃に飲食はいろいろルールが増えたのが手間だったのもあり辞めちゃいました。そこの窓際に小さいテーブルを2個ぐらい置いていたんですけどね、自分の中で、もう満足かなと思えたし、削ぎ落とせるものは削ぎ落とそうかな、と。喫茶の他も、前はこういう商品も扱いたいなとか、商品数をもっと増やしたいなとか、思っていたんだけど…ちょっと待てよ、と。ただでさえ今はあまり物を買わない時代じゃないですか。あれもこれもっていろんな物を置くよりも、私はこれがいい、これでいこう、と思えるものをお店に並べようという気持ちになっています。

⸺大切にしている言葉、ありますか?

なんでしょうね、みんな持ってるのかなあ。かなりゆるくゆるく生きてるからね。すごい苦労をした!みたいな、自慢できるような話が何もないんですよね。でも、鈍感力はあるかもしれません。寝たら次の日には忘れる、まではいかないけど。モヤモヤって悩んでも、悩み切ったら諦めるっていう感じ。「こんなにいっぱい悩んだんだから、もうおしまい!しょうがないでしょう!」って。時間が経ってみないとわからないこととか、相手が決めなきゃいけないこととか、私が悩んでもしょうがないな、って。ここまで悩んで答えが出ないってことは今は答えそのものがないんだ、って。

大きく落ち込まないんですよ。心配性な部分もあるのに、最終的には能天気っていうか。納得いくまで調べたり考えたりはするんですけどね。買い付けの時も、宿の周りの治安が気になってストリートビューで周辺を眺めたり、細かいところまで調べるんです。でも、ある程度やると、「はい!満足!」ってなるんですよね。いっぱいになったらもうおしまい。…あ、「満足」かもしれないですね、私の大切にしている言葉。

 

お店のこれからについて教えてください。

買い付けは変わらずに行きたいけど、自分の体力と相談しながらですよね。旅に出るとアドレナリンが出るから何とかなってるけどね。例えば滞在日数を長くするとか、無理しないように調整していかなきゃなと思ってて。どんなことが起こるかわからないからね。私がなにか理由があって買い付けに行けないときには、日本に商品を送ってもらえるような関係を作らなきゃな、とか。わたしは独身だしこの店を繋いでやっていく人はいないから、自分が満足するまでできたらいいかな。がむしゃらにがんばりすぎて、体壊しちゃったら本末転倒だと思うからね。


LOPPIS153(2014年8月8日オープン/盛岡市中央通1丁目6−34-2F
Instagram @eskimoyoshie_loppis153

 

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