盛岡という星で ThePlanet MORIOKA BASE STATION

盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。 盛岡を小さく丸いひとつの星に例えます。今までとは違う角度から盛岡を写し取り、見つめようとするものです。

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FA店 ilcompleanno

2025/5/11

 

10年以上25年未満の代替わりしていない小規模店。F(古すぎず)A(新しくもない)通称「FA店(エフエーテン)」。老舗特集にも新店特集にも載らない、でもきっと誰かの目的地になっているFA店の、今までとこれからのお話。盛星編集部がじっくり伺っていきますよ。

 

片島博之さん/ilcompleanno 


 

⸺片島さん、ご出身は?

出身は盛岡市、旧玉山村です。田舎なので小さい頃は早起きしてクワガタ採りや魚釣り、川遊びをしました。ランドセルには釣り道具、冬にはミニスキーで学校に通っていました。

小さい頃は騒がしい子どもで周りの大人たちから叱られて育ったので、ちょっと斜めから物事を見るような性格になりました。 高校は今は無き伝説の盛岡南高校(現、南昌みらい高校)で電車通学していました。 「南」という響きがちょっと南国のファンキー・ラテンなイメージがあって惹かれたのが志望理由?(笑) だったのですが、実際はスポーツ体育学校というのもあり、市内でもトップクラスの上下関係に厳しい学校です。 ラグビー部でしたが、そんなに強いほうではなかったです。部活が終わって恐怖スポットの前を通り家に帰るといつも21時過ぎていました。

 

⸺卒業後の進路は?

高校卒業後は設計施工の学校へ行き、社会人最初の就職先は今とはまるで違う建設会社に入社しました。 20 代はいろいろな職を転々としましたが、20代後半から30代の頃、中華食堂やイタリア料理店など飲食店で働くようになりました。 当時盛岡バスセンターの近くにオープンしたワインレストランで、 3 年半お世話になったのが独立前の最終職歴。そのお店がワインに携わるきっかけになりました。

その後は、「自分が知っているイタリア料理は本当にイタリア料理なのか?」という答えを探しに実際にイタリアに行きました。修行ではございません、ウロウロと放浪しただけです(笑)それが30代前半です。

イタリアのサルディーニャ州でマグロ漁を見たいというのが一番の目的でしたが、行き当たりばったりのノープラン。マグロ漁に興味を持ったのは、シンプルに魚が好きだったというのもありますが、当時東京の乃木坂に魚介専門のイタリア料理店があり、そちらのシェフが以前サルディーニャ州サンピエトロ島カルロフォルテのマグロ料理店で働いていたというのを聞いて、自分も行ってみたいと思ったんです。

 

⸺イタリアでの時間はどうでしたか?

イタリアに滞在中は、お金も無かったので(渡航資金は愛車を売り…)安いホテルを探し、探せないときは野宿した夜も…。 拙いイタリア語でちょっと働かせてくれないかと交渉したこともありましたが、規制が厳しいこともあり断られてしまいました。お金が欲しかったというわけではなく、経験として働きたかったんですけど...ダメでしたね。 基本的に食事は、スーパーで買ったカッチカチの硬いパンと水で過ごしていました。そんな中でも行ってみたいお店は数件あったので、そこへ行く日だけは贅沢して外食しました。

サルディーニャ島のそばにあるサン・ピエトロ島はマグロ漁の島で、どこの食堂に入ってもマグロ料理がありました。滞在したカルロフォルテという町には「アル・トンノ・ディ・コルサ」というマグロ料理専門の有名店がありまして、町の名を冠した“カルロフォルテ風煮込み”や、“マグロの心臓をスモークしたサラダ”や“マグロヴェントレスカ(トロの部位のオイル漬け)と赤タマネギ、トマトのサラダ”や魚介のパスタなどなど…。旨かった~

イタリア滞在中のある日の朝、教会の前の広場で「今日は何をしたらいいんだろうか」と“そして僕は途方に暮れて…🎵”いたら、広場の向こう側からアジア系の人が歩いて来たんですね。身なりからして日本人だなと思ってよく見たら、自分がイタリアに来るきっかけになった乃木坂のイタリア料理店のシェフでした。びっくりしましたよ、こんな偶然あるんだ、って。思いっきって声をかけてみたら、たまたま開催されていたマグロ祭り「GiroTonno」に来ていたそうで。これがご縁でその後も菜園の前店舗にいらして頂きましたし、昨年はキャンピングカーでファミリーで盛岡に遊びに来てくれました。

 

⸺お店を始めるきっかけは?

イタリア行きを考えだした頃に知人から「一緒に店をやらないか」と声をかけてもらいました。帰国してから新店の話を進めていたのですが、方向性や意見の相違があり一緒に店をやる話は無くなりました。 それで、「さて仕事を探さなくちゃならないな」と思っていたら、市内の人気 TEXMEX&アイリッシュパブ“SUNDANCE”の店長(現オーナー)さんが「次が決まるまでの間、必要な時は優先して休んでいいから店を手伝ってくれないか」と言ってくれたんです。当時もSUNDANCEは市内で有数の賑やかな飲食店でした。それから1年くらい偉そうなアルバイト(笑)として働かせてもらいました。

そしてようやく知人からの叱咤激励を受け、2007年に菜園2丁目の路地裏十字路で悪魔に魂を売り?満を持してお店を開きました。ビルの2階L字カウンター9席の小さなワイン食堂。 工事が済んで開店予定の日どりを考えたとき、大安はだいぶ先で…。夜営業の店だから先負でもいいかなと思い、2007年10月17日先負の日にオープンしました。

17 時30分から0時までの夜営業でしたが、お客さんがいると深夜まで…ということも多かったです。 カウンターのみの隠れ家的ワイン食堂として特に告知もせず静かにオープンしたのですが、それまでにお世話になった皆さまが、さらに街の先輩方に宣伝してくださり、いろいろな方にお店を知っていただくきっかけをつくってくれました。

 

⸺10年経ったころはどうでしたか?

移転したのが2017年、菜園のお店がオープンして10年経った頃です。 その間には東日本大震災もありました。 自分たちも10年、年齢を重ねて深夜までの営業がだんだんとしんどくなってきていたので、飲食店での経験を活かすこと、太陽の光を感じられる環境にすることを大事にしながら働きたいと考えるようになりました。それまで携わってきたワインや食材の販売をし、料理は惣菜としてご提供する店にチェンジしたら面白いのでは?というアイデアが生まれたのもこの頃です。

具体的に移転リニューアル、と考えた時に思い浮かんだ場所は、飲食店が連なる路地裏ではなく、少しひらけたところで、1 階の路面店。道幅も広く人の往来は多いけど交通量は少ない、そんな都合のよい場所を探したのが、 現在の所でございます。

前の店を覚えていてくださる方からは今もイタリア料理店と言われることもありますが、現在はワインと惣菜、食材販売の「商店」です。 奥にはワインを購入して飲んで頂くイートインスペースも併設、テイクアウト出来ないしっかりした料理を“ダークサイド惣菜”と名付けております。(夜の時間帯だから)

2017年9月の仏滅“鬼の日”に移転リニューアル、今のスタイルでオープンしました。 移転して8年目。体力の衰えは感じておりますが、心はすこぶる健康。11時から19時までの営業時間で、準備は朝7時か8時から始めます。 イートインのお客様がいらっしゃる時は、ショップも延長して19時以降営業していることもあります。

菜園時代は飲食店としてアルコール(ワイン)を飲むお客様が来店する店でしたが、今はワインショップとして、販売や、インポーターや海外から蔵元を招いての試飲会、仕事帰りに晩ごはんのおかずの一品として惣菜販売。料理好きな方も多く、オリーブオイルやパスタなどの食材に興味を持っていただくお客様も増えてきました。

ワインも食材も自分たちが出会い、蔵元やインポーターさんのキャラクターを理解した上で試飲、試食したものを商品として扱いたいと思っております。 常日頃フレンドリーなお付き合いのお客様に対しては直撃で、仕入れのときに好きそうなものや面白がっていただけそうなものを入荷することもあります。

スタンスとしては「商店街のお店」でありたいです。この辺りも岩手医大の移転後はお店が減りましたが、お隣には阿部魚店さん、最近ではBOOKNERDさんが新たに移転して来てくれました。 近くには和菓子・団子屋さんもあります。そういう商店街のような空気を大切にしたいです。

 

⸺大切にしている言葉、教えてください。

言葉というか...日々の営業のことで言うと、「地産地消」という言葉は私たちのような店で言えば、岩手のお店が岩手のものを仕入れる、販売することを表すと思うんですが。お店に並ぶまでの過程で地元のお店のスタッフさんとの「日常のいつものやりとり」があり、仕入れをし、商品として販売していく。それがたとえ岩手以外の農産物や海産物だったとしてもそれはある意味では「地産地消」と言えるんじゃないかなと。

⸺これからのilcompleannoは。

これからのことも常に考えなきゃいけないんでしょうけど、日々に追われてなかなか... お店を改装したいなとか、立ち食いそば屋さんやりたいな、とか思ったりしますが、考えは浮かんでは消えてですね(笑)

人生としてはまだなんとも言えませんが、コロナのこともありましたし、健康面は少し気にするようにしています。

10 年くらい前は若者のアルコール離れなんて言われつつも飲食店では飲み放題も当たり前にありましたし、安価なペットボトルのアルコール飲料も多く見かけましたが、ここ最近はナチュラルワインがブームのようで、若い年代のお客様も来店することが増えました。ファッション誌やテレビでも取り上げられたり、人気俳優がナチュラルワイン好きを公言したおかげでもあるのかな。

彼らは品種やテロワールがどうとかはあまり気にせず、シンプルに飲んで美味しいからという理由で来店してくれます。「ワインは分からないからあまり飲まない」という方にも出会ったりしますが、「ビールでも焼酎でも他のお酒もそんなに詳しくなくても楽しく飲んでいるんだから、それと同じでいいんじゃないですか?」と話します。

ワインは世界中どの大陸でも造られていますし、極端なことを言えば最も造るのが簡単な果実酒、果実が発酵するだけなんです、もちろんより美味しくとなれば人の手もかかりますが。TV の世界街歩き番組で地元のオヤジたちがワイワイ呑んでいる、それが「ワイン」なんですよね。高貴な飲み物というイメージを持ってしまっている方もいますが、うちで販売しているワインは過度な味付けや人的作業をしない、農家が農業として造っているワイン。添加物含有量も非常に少ない、もしくは無いので、二日酔いにもなりにくいです。

生きたワインを扱っているので、保存や抜栓後のコンディションもお客様にお伝えするようにしております。ナチュラルがゆえ、じゃじゃ馬も多いので…(笑)インポーターさんとのお話から教わることも多いので、日々のコミュニケーションが欠かせないですね。

あまりかしこまりすぎないお店を目指しています。自分たちが子供のころ、あの時イカしていた変なお店の人(オヤジ)が面白く眩しくカッコよくて。それを目指しているのかな?と思っております。

その他いつもどおりいろいろ、
今後とも宜しくお願い致します🌞


ilcompleanno  (2007年10月17日オープン/盛岡市内丸1-6-16 大手先ビル
Instagram @ilcompleanno

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